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【第2回】視覚障害とはどんな状態か
2021.4.5
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今回は、視覚障害とはどのような状態なのか説明します。
全盲と弱視
まず視覚障害は大きく「全盲」と「弱視」に分けられます。
「全盲」は、文字通り視機能をすべて失っているか、またはあったとしても、日常生活で十分に使えるだけの視覚を持たない状態です。明暗だけがわかるとか、物陰くらいはわかるという人も、盲・弱で分けるとしたら盲に分類されます。
一方で「弱視」は、健常者ほどではありませんがある程度の視覚機能が残っており、顔を近づけたり拡大したりすれば文字が読めたり色や形を判別できる状態です。具体的に視力による定義はなく、病院や関係機関によってその見解はまちまちです。
参考までに、世界保健機関(WHO)の視覚障害の定義では矯正視力0.05未満を盲、矯正視力0.05~0.3未満を弱視と定めています。日本の身体障害者福祉法では、良い方の目の強制視力が0.6以下、悪い方の目の強制視力が0.02以下で両眼の視力の和が0.2を超えれば視覚障害で障害者手帳の交付を受けることができます。
視覚障害により障害者手帳を交付されている人の数はおおよそ33万人(2018年時点、厚生統計要覧)です。これは日本国内の透析患者の数と同じくらいです。
なお、障害者手帳を持つほどではないものの、目が見えにくくて困っている方は130万人とも150万人とも言われています。結構多いですよね。
このような実態からもわかるように、視覚障害者の大半は少し見えてる弱視者で占められています。弱視者7~8割、全盲者2~3割程度の割合であり、その中でも視覚を完全に喪失している完全失明者は1割いるかいないかだと言われています。
社会一般には「視覚障害=盲目」というイメージなので、全盲者への支援は進んでも弱視者への支援がなかなか進んでいないのが現状です。
この記事に独力でたどり着いた視力障害の方がいるとするなら、それはおそらく弱視の方でしょう。全盲者はそのくらい少ないものです。
視力と視野
視覚障害の評価には、一般的に「視力」と「視野」が用いられます。他の項目もありますが、視力や視野は数値化できることから評価対象としてわかりやすいので、障害認定や介護保険、障害年金の手続きなどに利用されます。
なお、ここで障害者手帳の細かい等級などを書いてもあまり意味はないので、視力や視野とその見え方の一般論を書きます。眼病を患っている方には思い当たるところがあるかもしれません。
視力
視力とは細かい指標をどのくらい見分けられるかというものを数字にしたもので、写真の画素数に相当します。目が悪い人は、画素数が少ないデジカメで写真や映像を撮影しているようなものです。
以下は視力の数値とその大まかな見え方についての一覧です。あくまでも一般論で、すべての人がこのような見え方になるわけではありませんのであしからず。なお、すべて両目の矯正視力で考えてください。
視力 | 状態 |
---|---|
1.0~1.5 | 日本人の健常視力(1.2~1.5だが、1.0以上あれば問題ないとされる) |
0.7以上 | 普通自動車免許の取得に必要な視力 |
0.6 | 普通に生活する分にはあまり困らない 悪い方の目が0.02以下で身体障害者障害程度6級相当 |
0.2~0.5 | 文字が読みにくい、テレビが見えにくい、人の顔がわかりにくいなど見ること全体に少し不自由が出てくる |
0.1~0.2 | 足元が見えにくくケガをしやすくなったり、物を落としたり無くすなどの失敗が目立つようになり、生活や仕事に支障が出始める |
0.05~0.1 | 弱視補助具を使わないと文字が正確に読めず、掃除や調理のようにある程度視力が必要な作業が難しくなる。歩行時には杖か盲導犬が必要になる。 ※弱視補助具…ルーペ、単眼鏡(片目用の双眼鏡)、拡大読書器(カメラとモニターのセット)、携帯型拡大読書器(スマートフォンのような機器)、遮光眼鏡、白杖、パソコン用ソフトなど |
0.02~0.04 | 弱視補助具を使用しても文字や物の形がよく見えなくなってくる。このあたりが盲と弱視の境目になる。 最近は光学機器の発展により、この程度の視力でも普通文字が見えることもあるが実用的な読み書きは難しくなるため、点字を習い始めたり、スクリーンリーダー(コンピュータなどの画面読み上げソフト)の導入を始めることが多い。 |
0.01 | 日本でも海外でも、このあたりから盲として扱われることが多い。色が判別できる人もいるが、おおよその見え方は、ぼんやりと物陰がわかる程度で形状はわからないので、文字や人の顔の判別はできなくなる。 |
ところで、0.01の下はすぐ「ゼロ(盲)」ではなく、3段階ほど視力があります。
指数弁 | 目の前に出された指の本数を数えることができる |
---|---|
手動弁 | 目の前で動かした手の動き(方向)がわかる |
光覚弁 | 明暗のみわかる。検査は患者を暗室に連れて行き、ペンライトを目に当てて行う |
ゼロ(盲) | 明暗もわからず完全失明 |
視野
視力がデジカメの画素数であるのに対して、視野は一度に視界に捉えることのできる範囲(つまり一度に目に入る範囲)のことです。
視野検査は、コンピュータで自動で行うものと、検査技師が手動で行うものとがあります。
自動視野計では視野内の光の感度を調べ、手動視野計では視野全体の大きさや形を調べます。眼病の早期発見には自動視野計が使用されることが多いのですが、画面の中心を凝視し続けなければならず、さらに強い光から弱い光までがランダムに点滅するので、ある程度視力が残っていないと検査そのものができません。
一方、手動検査では、臨床検査技師の方が目の動きや視線を見ながら指標の光をゆっくり動かしてくれて、疲れてきたら休憩もできるので、指数弁や手動弁の人でも検査を受けることができます。
視野の異常は「狭窄」「暗点」「沈下」に分類されます。
「狭窄」は一度に見える範囲が狭くなってしまうことで、「暗点」は視界の中に見えない部分が島のようにできてしまうこと、「沈下」は視力の低下により視界の中で捉えられる光の感度が落ちてしまうものです。
重度の視野狭窄がある方は、たとえ視力が良かったとしても一人での外出が難しくなります。逆に暗点や沈下がある方は、行動には問題なくても、文字が読みにくかったり人の顔が判別できなかったりします。
目と腎臓が同時に悪くなる病気
さて、視力と視野という視覚障害を評価する指標について、ずいぶん長く書いてしまいましたが、いよいよ皆さんが興味のあるお話です。
腎臓病患者さんで罹患者が多そうな眼病となると、やはり糖尿病網膜症がぱっと思い浮かびますね。糖尿病の三大合併症は糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、そして糖尿病性網膜症です。どこの透析室にも糖尿病患者さんは大勢いると思いますが、その中に目が悪い患者さんが多いことでしょう。なお糖尿病網膜症は、日本人の中途失明原因として緑内障、網膜色素変性についで多い疾患です。
次に、視覚障害の障害者手帳を交付されている人数、および日本人の中途失明原因第1位である緑内障について説明します。
緑内障は中高年から高齢者にかけて発症することが多い眼病です。糖尿病からの続発緑内障や、ステロイド系の薬を常用している方はステロイド緑内障になることがあるので、腎臓病が原疾患ではなくても、腎臓病患者で緑内障にも罹患している方は多いかもしれません。
また、私のようにもともと緑内障に罹患していて、後から腎臓病になってしまうというケースも少しですがあります。緑内障の薬の中に腎臓に大きな負荷のかかるものがあり、それを長い間使ってしまったり、もともと腎臓が弱い体質の方が知らずにその薬を使ってしまったりすることで、腎臓に負担をかけてしまうことがあるためです。
なお、そのような薬を使う場合は、内科での定期的な血液検査や尿検査を行うことを必須条件としている病院が多いようです。
糖尿病や緑内障以外にも、加齢に伴うさまざまな目の不調や、自己免疫疾患などの難病などで目と腎臓が一緒に悪くなってしまったりなど色々とあります。
少しでも目の不調を感じたら、面倒がらずに眼科の受診を
あえてそれぞれの眼病については書きませんが、日ごろから目の不調を感じている方は、まずは面倒がらずに眼科に行きましょう。
腎臓病のような内臓の病気と違って、直接命に関わる目の病気ははあまりないため、皆さん軽く考えてしまい後回しにしがちです。ちょっと目が見えにくくなってきても、年のせいとか、眼鏡を変えれば大丈夫だと高を括って、なかなか眼科にかかろうとしないのです。
その結果、いよいよ目が見えにくくなってきたときには一人で病院にも行けず…で、やっと誰かに連れて行ってもらった時には、もう手遅れというケースは少なくないのです。
もちろん、白内障のように手術でよく見えるようになる眼病もありますが、網膜や視神経の病気は一度発症すると回復しない場合がほとんどで、放置しておいたらそのまま視覚障害になってしまいます。
なお、例え医学的に治療の余地がなくなってしまったとしても、そのような方々の生活を支える制度や社会の仕組みが色々とあります。
次回は、視覚障害者の2つの困難といわれている「文字処理」と「移動」に焦点を当てながら、そのような仕組みについて説明します。
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