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「リハビリを通じて患者さんの気持ちに寄り添う」
医療法人社団麗星会・五反田ガーデンクリニック・
リハビリテーション科の取り組み
2015.3.5
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私よしいなをきは月に1度、五反田ガーデンクリニックへ足を運んでいました。生き活きナビ連載の『理学療法士ゆうぼーの じんラボ運動療法講座』の運動療法のポージング撮影のためです。執筆者であり、自らポージングモデルをされている“ゆうぼー”こと舘野雄貴さんは五反田ガーデンクリニックで理学療法士をされていて、多くの透析患者さんのリハビリに取り組まれています。私は撮影の合間に舘野さんと患者さんたちとのやりとりや、リハビリテーション治療の様子を見てきました。そこには何か特別な“ぬくもり”のようなものを感じたのです。そこで、今回はこの五反田ガーデンクリニック・リハビリテーション科の取り組みを紹介したいと思います。
【医療法人社団麗星会・五反田ガーデンクリニック】
理事長:若井陽希
所在地:〒141-0022 東京都品川区東五反田5-22-27関配ビル7階
TEL:03-3445-4970 FAX:03-3445-3131
診療科目:内科・泌尿器科・人工透析内科・リハビリテーション科
「腎不全医療・透析医療」「リハビリテーション」「一般在宅医療(訪問診療・往診)」「一般外来(内科、泌尿器科)」の4つの部門があり、これら4部門を時には個別に、時には組合せて、最適な形として患者に提供。また、通院血液透析の他に在宅血液透析にも力を入れており、緊急往診対応などきめ細やかに対応している。クリニックの標語は「More for the Life(患者さんの人生・生命のためにもっとできることを)」としており多種多用な地域医療ニーズに応える。
【五反田ガーデンクリニック・リハビリテーション科】
理学療法科長:舘野雄貴
理学療法士:廣江睦己
JR五反田駅から徒歩2分、ビジネスビルの7階に五反田ガーデンクリニックはあります。フロアには受付と血液透析室、そしてリハビリテーション室があり、透析を受けられる前に多くの患者さんがこのリハビリテーション室に立ち寄り、20分〜30分程度のリハビリテーション療法を受けています。専属の理学療法士である舘野雄貴さんと廣江睦己さんのお2人がリハビリテーション指導を行います。
リハビリの前に患者さんの状態を細かく確認
私がクリニックに到着した午前9時にはすでに1人目の患者さんがいらしていました。車椅子で来られた男性患者さんは耳が不自由とのことで、舘野さんは筆談を交えながら、「この土日に怪我などしませんでしたか? 食事は食べられましたか?」と確認します。男性は自宅にいる際に転倒してしまい、非常に落ち込んでいると応えました。
「高齢者は転倒して怪我をしたりすると、家族に迷惑をかけるのではないかとひどく落ち込んでしまうことがあります。」と舘野さんは言います。リハビリ療法を進める前に、必ず患者さんのメンタルの状態をよく確認されるそうです。
さらに怪我の状態や腰など気になる体の部分を確認して、この男性患者さんには歩行訓練を行うことになりました。歩行訓練には写真にある「歩行訓練用平行棒」を使います。舘野さんと廣江さん2人の補助を受けゆっくりと歩きましたが、1往復がやっとです。転倒したことがショックで力が入らないようでした。落ち込んだ表情の男性に「がんばりましょう! また歩けるようになりますよ! 」と廣江さんが大きな声で呼びかけます。
「転倒をきっかけに、今までのように普通に歩けたことができなくなったとプライドが傷つき、以後歩くことを諦めてしまうケースもあるのです。するとインナー(体幹、体の内部の筋肉)から筋肉が落ちていきます。次第に踏ん張る力が衰え、そこから寝たきりなってしまうことも…。そうならないようにするには、わずかであっても歩行訓練をしなければなりません」と舘野さんは言います。
施設の中だけでも、ベッドまでの歩行や体重測定、レントゲン検査などへの移動があります。そこで1分でも自力で立つことを目標にしているそうです。たとえ1分でもそれは運動機能訓練の1つになります。
患者さんを労わるよう優しくマッサージ
2人目にリハビリ室へやってきたのは高齢の女性。この方も車椅子です。膝が曲がってきており、このまま硬くなってしまうと姿勢がかがみ気味になり、踏ん張ることができなくなるそうです。この方は「遠赤外線治療器」を使って膝の部分を温めさらにマッサージをします。こうして血行の改善や関節痛を和らげ、膝周りの筋肉の緊張をほぐしていきます。
「だんだん歩けなくなっちゃう」 女性はボソリとつぶやきました。
廣江さんは大きな声で「そんなことないよ! ちゃんと歩けていますよ! 大丈夫です!」と笑顔で伝えます。
廣江さんのマッサージを見ていて、マッサージの加減がどの程度のものか知りたいと思いました。そこで私は前々から気にしていた自分の「猫背」について、廣江さんに相談してみました。
「うつ伏せになってみてください。ちょっと診てみましょう」
廣江さんが私の背骨の1つ1つに親指を当て、骨の隙間にある筋を揉みほぐしてくれました。全く痛みは感じず、ソフトで丁寧にマッサージしてくれているのが分かります。廣江さん曰く、歪んだ骨の隙間を1つ1つ伸ばして正常な状態にしているのだそうです。最後に体を起こして両腕を組んで頭の上で伸ばし、さらに後ろで組んだ手を左右に伸ばすという運動を指導してもらいました。前かがみの姿勢での書き仕事は、胸の筋肉が閉じてしまい、両肩が前に引っ張られて背骨が曲がってくるそうです。両肩を開くようにすると自然に背骨が伸びてくるとのことです。マッサージと運動療法で、実際に猫背が改善したように感じました(後日、子供に見てもらったところ以前より背筋がまっすぐになっていると言われました)。
お孫さんと結婚式でバージンロードを歩いたAさん
歩行用平行棒を廣江さんと一緒に男性が歩いていました。しっかりとした足取りで力強く歩いているのが分かります。
男性はAさん。お話を聞くとお孫さんから結婚式でバージンロードを一緒に歩きたいと頼まれ、それを実現するために集中的に歩行訓練をされたとのことでした。以前は平行棒での歩行訓練も大変だったそうですが、本番ではお孫さんと一緒に20メートルの距離のバージンロードを歩き切ったそうです。
「孫と一緒に歩けて本当に良かった。良い経験ができたよ」とAさん。
以前に比べるとずっと力強く歩けるようになったそうです。
理学療法を受けたくて転院されてきたBさん
Bさんは目が不自由ですが、以前の撮影のときすでにお話ししていたので声をかけるとすぐに私に気がついてくれました。
Bさんはすぐに「サイクルマシン」に向かい、力強くサイクルマシンのペダルを漕ぎ始めました。私はその姿をカメラに収めながら、Bさんがリハビリテーションを受け始めたきっかけをお聞きしました。
「ここへ来たのは一昨年の10月だったかな。それまでは歩くのが辛くてね。目も見えないし歩くのも怖いしで、体が動かせなかったんだよ」
品川ガーデンクリニック(五反田ガーデンクリニックと同じ医療法人社団麗星会のクリニック)で透析を受けていたBさんは、透析室に見知らぬ体の大きな男性がいることに気がつきました。看護師さんに聞くと「五反田で理学療法士をされる舘野さんよ。今度、五反田でリハビリテーション科ができるんですって」との返事が。それを聞いたBさんは自分もリハビリを受けたいと考え、すぐに転院を希望されたそうです。
「品川も五反田も自宅からはそれほど距離は変わらないし、転院はスムーズだったね。最初は足を動かすのも辛かったけれど、舘野さんが丁寧にリハビリトレーニングをしてくれたおかげで、少しずつ歩けるようになった。目が見えないから外出はなかなかできないけれど、マンションの敷地内なら普通に歩けるようになったよ」
Bさんはペダルを力強く回しながら話し続けます。全く息切れをしているように見えません。
「最初は歩けるようになるなんて思わなかったから嬉しかったよ。今じゃ家では1日に30回くらいスクワットをしているんだ。ずっと今まで奥さんに面倒見てもらっていたから、食器洗いくらいは自分でするんだ。目が見えなくてもそれくらいはできるからさ」
リハビリを受けていることに安心しているご様子。透析毎にトレーニングすることが自分の体力増進に繋がっていることを実感されています。
患者さんとの会話から体のことに気がつく
ひっきりなしに患者さんがリハビリテーション科にやってきます。舘野さんと廣江さんが個別に患者さんに対応します。患者の皆さんは2人と話をするのが楽しそうです。
「患者さんの声や口調で体調が分かります。今日はちょっと体調が悪そうだなとか…。本人が『大丈夫』と言ってもいつもと少し違うなと思うと透析室のスタッフに一声かけておきます。検査の数値だけではない情報を患者さんたちとの会話から得ているのです。でも基本的には患者さんは何でも話してくれますね。リハビリはお互いの距離が近いですから、患者さんも我々に話しやすいんだと思います」
そう舘野さんが話をしてくれた時、1人の患者さんがお見えになり、舘野さんの顔を見るや泣き出してしまいました。舘野さんは患者さんを別室に促し話を聞き始めました。しばらくして戻ると…。
「ご家族のことで悲しいことがあったそうです。高齢の患者さんは気持ちの浮き沈みが本当に激しいのです。今日はリハビリを中止して、ずっとお話しを聴いていました。聴いてあげることくらいしかできないのですが、ここではピアサポーター養成講座で学んだことが役に立っています」
最後に舘野さんが考えるリハビリテーションについて聞いてみました。
「『療法なのだから治さなければ意味がない』という考え方もあります。私は、理学療法は治すことばかりではなく、杖や車椅子の使用など安全面も考える必要があると考えています。転倒などを防止することも理学療法では考えなくてはいけません。高齢者の場合、息切れ、血圧、脈拍数などの状態を診て、患者さんに合った安全環境を提供することも大切なことだと思います」と舘野さん。
「患者さんの状態は常に同じとは限りません。すごく調子が良くなったと思っても、転倒などで気分が落ち込んで全く状態が変わってくる。毎日違う人を見ているように感じることもあります。
高齢の患者さんはちょっとした風邪を引いてしまうだけで運動機能が低下して、放っておけば間違いなく寝たきりになってしまいます。だから患者さんに声をかけながら、少しでも体が動くようリハビリ療法を続けなければ、と思います」
医療法人社団麗星会理事長・若井陽希先生にお聞きしました
— 五反田ガーデンクリニックでリハビリテーション療法を取り入れた理由をお聞かせください。
若井先生 透析患者様は、治療による疲弊や栄養状態不良、運動不足等さまざまな原因により体力・動作レベルが低下することがあります。また、透析患者様においても高齢化が進み、加齢による退行変性(たいこうへんせい:年をとることによって体の構造や機能が低下すること)により廃用症候群(はいようしょうこうぐん:安静の状態を長く続けることで、さまざまな心身機能が低下すること)が起こることが多くなっております。体力や動作レベルが低下すると、在宅生活に支障を来し、転倒による怪我が大変心配されます。患者様がより安全な生活を送り、自分の能力を最大限発揮出来るようにするためにリハビリを取り入れました。
— 導入にあたり苦労された点は何ですか?
若井先生 諸先輩方の努力により、徐々にエビデンスが確立されてきているとはいえ、透析患者様に対するリハビリテーションを含めた「腎臓リハビリテーション」の分野はまだ発展途上です。そのため、腎臓リハビリテーション学会をはじめとした学会や勉強会に積極的に参加し、常に学び続ける姿勢を持ち、実際のリハビリテーションに取り組むようにしてきました。また、エビデンスの探求という面のみではなく、患者さんと向かい合って、それぞれの方に合ったオーダーメイドのリハビリテーションを提供しようという方針を決め、取り組んできました。そのため、現在の体制を構築するまで、リハビリテーション科はかなり苦労したようです。
— 舘野さん、廣江さんと患者さんとの交流を見て感じられたことは何ですか?
若井先生 透析は週3回の持続的な治療ですので、患者様との関係作りが大切だと考えています。また運動療法を実施する上で、当日の身体状態や非透析日の過ごし方を考慮しなければなりません。動作や体重からだけでなく、しっかり会話をしてコミュニケーションを取ることにより患者様の日々における変化に気付くことができます。医療者と患者様との信頼関係を築くことで、患者様がより安心して透析を受けやすくなるようになっているのではないかと思われます。
リハビリ室からは、楽しそうに笑う声や体操に励む活気ある声が聞こえてきて、クリニック内も明るくなりました。
— 今後、リハビリテーション科に期待することは何でしょうか?
若井先生 患者様が在宅生活を続けられ、安全にクリニックへ通院できるようにするための取り組みを今後とも継続して欲しいと思います。高齢の患者様が転倒せず安全・安心な生活を送れるようにするためには、患者様ご自身のできることを増やし活動量をさらに上げていく必要があります。患者様個人の社会的背景に着目してそれぞれのゴールを設定し、身体機能と動作レベルの底上げが必要です。また、患者様が可能な限り快適に透析治療を行えるように、下肢の痙攣や血行不良への対応、筋肉や関節に負担がかからない安楽肢位の指導等の各種取り組みを続けて欲しいと思っております。
【よしいなをき所感】
舘野さん、廣江さんのリハビリテーション療法を実際に見ていて気がついたことは、患者さんたちが皆さんお2人に打ち解けているということでした。体のことは何でも相談できるし、プライベートなこともたくさん話されています。こうした光景を見ていると、高齢の患者さんたちが元気な様子がうかがえます。
ここでは「お加減いかがですか」「はい大丈夫です」といったルーチンなやりとりはありません。患者さんは自然なやりとりの中で自分の体のことを安心して話せるのです。この安心感はどこから来るのでしょう?
リハビリを終え透析に向かう患者さんに、舘野さんと廣江さんはずっと寄り添っていました。患者さんの歩くスピードに合わせベッドまで付き添い、患者さんが体を横にするまで2人は患者さんのことを見つめています。そうした姿が安心感の答えだと私は思います。
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