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失ったものを数えるな
~病気と向き合って生きてゆく心構え~

2024.7.8

文:ミーナ

2824

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パラリンピックイメージ

「失ったものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ」

これは、パラリンピックの創始者とされるルードウィヒ・グットマン卿の名言です。そして私の好きな言葉の一つでもあります。
オリンピックイヤーである今年は7月26日からオリンピックが、8月28日からはパラリンピックが始まります。今回はグットマン卿とパラリンピックの歴史を振り返りながら、病気や障害と向き合って生きてゆく心構えについて考えてみたいと思います。


グットマン卿とパラリンピックのはじまり

Ludwig Guttmann2

ルードウィヒ・グットマン卿

グットマン卿はドイツ帝国シュレージエン州(現在のポーランド)のユダヤ人の家に生まれました。ライプツィヒ大学で神経医学を修め、卒業後同大学で講師をつとめた後はユダヤ人病院で医師をしていたのですが、1939年、ナチスによる反ユダヤ主義が台頭したドイツを離れてイギリスに亡命。その後オックスフォード大学で脊髄損傷医療を研究しました。

1944年、ロンドン郊外のストーク・マンデビル病院に新設された国立脊髄損傷センターの所長に就任。当時は第二次世界大戦の真っただ中であり、戦場で負傷した兵士が次々と運び込まれてきていたといいます。その中でも重い障害をもつことになった傷痍軍人たちの治療を通じて、身体的・精神的なリハビリテーションにスポーツが最適であると考えたグットマン卿は、脊髄損傷患者の治療やリハビリにさまざまなスポーツを取り入れるようになりました。

そして1948年ロンドンオリンピックの開会式の日に、同病院の入院患者を対象としたストーク・マンデビル競技大会を開催。この大会に参加したのは入院患者16名で、種目もアーチェリーのみというささやかなものでしたが、大会は大成功し、以後規模を拡大しながら毎年行われるようになりました。そして1960年、同年のオリンピックと同じイタリアのローマで開催した「第9回国際ストーク・マンデビル競技大会」が、のちに第1回パラリンピックとして認識されています。


障害よりも個人の能力が大切

グットマン卿は傷痍軍人たちを治療するなかで、とりわけ重い障害を持つことになった患者たちに対して「障害ではなく、能力こそが重要である」という言葉をかけていたそうです。
障害や病気にはさまざまな形の喪失体験が伴いますが、だからと言って、あれもできない、これもできない…では前には進めませんものね。

今でこそ医療の発展や福祉の向上、人々の意識の変革により、こうした言葉が言えるのかもしれませんが、そのことを半世紀以上前に重度身障者となった患者たちに説いていた医師がいたということ自体、すごいことだったのではないでしょうか。
また、1948年に成功を収めた初めての競技大会についてグットマン卿は「小規模ではあったが、その大会は競技スポーツが健常者の特権ではなく、脊髄性麻痺障害者のような重度障害者でも、その気になれば、スポーツができるということを世間に示した」と振り返っています。

スポーツにとどまらず、進学や就労、スポーツ以外の趣味や余暇活動、結婚など、障害や病気を理由に「できない」と思ってしまっている人もたくさんいるかと思いますが、これらは健康な人だけの特権ではないのです。
そう考えてみると、失った体の一部の機能に固執して、人生をあきらめてしまうのはなんともったいないことかと思えてきますね。それよりも、残された能力を最大限生かして、自分にできることをしたり、日々の生活を楽しんだ方がどれほど有意義な人生になるでしょう。

パラリンピックイメージ

さて、もうすぐ2024年パリオリンピックが始まります。オリンピックの後には、グットマン卿が半世紀以上前に種を蒔いたパラリンピックが開催されます。出場選手は肢体不自由と視覚障害の選手が中心で、持っている疾患や障害は恐らく皆さんとは異なりますが、パラリンピックの精神はすべての障害者や難病患者、またスポーツをやらない人々にも言えることではないでしょうか。

今年は、パラリンピックを観戦しながら、グットマン卿の功績と、病気を持って生きてゆく心構えに関して思いを馳せてみるのも良いかもしれません。

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ミーナ

ミーナ
1990年9月生まれです。生まれつき、先天性緑内障という目の病を持っており、幼い頃から弱視で現在はほとんど見えていません。腎臓は2017年に急な体調不良から緊急透析導入となり、今に至ります。原因は不明です。視覚と腎臓の重複障害ですが、日々楽しく生活しています。
趣味は読書で、4時間の透析中に1〜3冊くらいは読んでしまうかなりヘビーな読書家です。

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