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元看護師の私とIgA腎症

【第3話・最終回】行政職の視点から「透析と医療安全」について思うこと

2024.6.24

文:うめちゃん

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結婚を機に看護師から地方公務員(行政職)に転職した私。30年以上にわたる公務員生活でしたが、この話をお読みいただく頃にはもう退職しています。4月から看護師に復帰し、「元看護師」ではなく、再び「現役看護師」の私になりました。

公務員(行政職)の仕事は、人事異動があると転職レベルで担当する業務が変わると言われています。確かにそのとおりで、私も人事異動の度にいろいろな業務を担当してきました。元々看護師経験のある私は、公務員生活のなかでも保健所の業務、とりわけ医療法※1や医療安全※2を取り扱う業務に最もやりがいを感じました。

これらの業務を通して感じたことの中から、「医療機関によって透析室の環境や設備に差があるのはなぜか?」「医療機関への不満を上手に伝える方法」の2点について、私なりにまとめてみたいと思います。

※1 医療を提供する施設の体制を定める法律で、医療を受ける人の利益の保護や、良質かつ適切な医療の効率的な提供の確保を目的としている。

※2 医療の過程で生じる可能性のある事故やエラーを最小限に抑え、医療を受ける人の健康や安全を守ることを目的とする取り組みや原則のこと。医療機関は安全管理体制が求められ、地域の都道府県などに相談窓口として医療安全支援センターが設けられている。


医療機関によって透析室の環境や設備に差があるのはなぜか?

good/badのハンドサインイメージ

結論から言うと、「透析室は人員数や構造設備の基準が定められていない」ことが要因のひとつだと思います。

医療法という医療を提供する施設(病院・診療所)について定められた法律があり、例えば患者ひとりに確保すべき病室の床面積などが規定されています。またベッドの数と病床の種類によって、医師や薬剤師、看護師等の配置にも基準があり、基準を下回る場合は入院患者の数を制限しないといけません。

では、透析室についての基準はというと、実は設備や人員の配置などの医療法上の規定が特になく、自治体によっては「透析室=処置室」と判断しているところもあります。そして「処置室」もまた、特に細かい基準は決められていません。つまり、透析室の設備や人員配置は医療機関の判断に委ねられているのです。

ベッドの間隔が狭い、ベッド間のカーテンはない、男女別の配慮はない、他の患者や医療スタッフの話し声が丸聞こえ、医療スタッフが少なくて声をかけにくい、血液検査をしても説明がない、医師の回診がなく決まった薬が繰り返し処方されるだけ…。ブログなどで交流している、透析治療を受けている方々の切実な声です。

その一方で、透析の日は毎回医師の回診があり、採血結果の説明を受け、体調や食事の状況を確認してもらい、必要に応じて内服薬を調整していく…。そんな適切な医療を当然のこととして提供する医療機関もあるようです。

行政としても、透析室について医療法上の明確な構造設備基準があれば、それを満たしていなければ改善するように医療機関に求めることができますが、基準がないと指導等を行うことが難しい場合が多いです。


医療機関への不満を上手に伝える方法

では、透析室の環境改善など、不安や不満について医療機関へ改善のお願いをしたい時、どうすれば上手く伝えることができるでしょうか。立入検査※3などを業務としていた行政職の視点から考えてみます。

まずは、「透析室の医師やスタッフさんに直接、口頭で質問や相談をしてみる」。日頃からコミュニケーションが取れていたら、これが一番いい方法だと思います。でもそのような相談ができる雰囲気の医療機関なら、あまり不満も出ないですよね。

口頭では伝えにくい場合に利用をお勧めしたいのが、「意見箱」。これは大病院でも、小さなクリニックでもほぼ設置されています。ほとんどの医療機関は、意見箱での患者からの意見や要望と、それに対する回答や改善した内容を公開するところが多いです。また、保健所などの立入検査の際も、意見箱の取り扱いや患者からの意見の内容、それに対する取り組みを確認する場合があります。

ご意見箱イメージ

意見箱への要望や質問はできるだけ具体的に記入すると、医療機関も対応しやすいです。例えば、「穿刺の順番はどのようなルールで決まるのですか。わかりやすいように掲示板に掲示してほしいです」とか「採血の結果について、どのタイミングで医師からの説明をお聞きできますか。体調のことなども医師に相談したいです」など。個別に回答してほしい場合は名前を記入してもいいですし、匿名の場合は、回答方法を具体的にお願いするといいでしょう。それと大事なことですが、改善された場合などは改めて意見箱にお礼の言葉を入れるのも忘れずに。医療従事者にとっては非常に嬉しいことなのです。

そうは言っても、医療機関の職員がいるところで意見箱に投函するのは勇気が要りますし、長い付き合いになる医療機関に意見をするのは抵抗があるのも事実です。

医療機関での意見箱経由の相談が難しい時は、都道府県や保健所にある「医療安全支援センター」に相談する方法もあります。医療安全支援センターは医療法の規定に基づき全国380カ所以上に設置されており、患者・住民と医療機関との間で中立的な立場で相談に対応しています。基本的には、患者・相談者のプライバシーを保護し、相談者が不利益を被ることのないよう十分に配慮することになっています。緊急性があればすぐに医療機関へ確認に出向くこともあります。また、相談内容は記録として残り、相談者へ同意を得た上で医療機関へ提供されたり、あるいは立入検査の際の参考にして重点的に確認することもあります。

「医療安全支援センター総合支援事業」全国の医療安全支援センター一覧はこちらから御覧ください

※3 医療を提供する施設を、良質かつ適正な医療の提供にふさわしいものとすることを目的に、規定どおりの人員や構造設備かどうか、それらを適正に管理しているかチェックし、必要に応じて指導するなどして改善を図る検査のこと。


おわりに

患者からの意見・要望に対して熱心に耳を傾け、真摯に取り組む医療機関はとても多いです。安心して治療を受けることができるよう、小さな意見でも伝えていけば、環境改善につながる可能性もあります。自身が受けている医療について不安・不満がある場合は、医療機関の相談窓口や行政など、一番利用しやすいところを窓口にしていただいて大丈夫ですので、相談してみてください。

このじんラボの存在も忘れてはいけませんね。当事者の声を広く伝えるため、アンケートを実施したり体験談を募集しています。なかなか集まりにくいけど実は切実な声を、少しずつでも集約して大きな声にしていくことは、これからの安全安心な腎臓病医療に大切なことであり、貴重な活動です。みんなで盛り上げていきたいですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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うめちゃん

うめちゃん
長崎市出身、現在は中四国エリア在住。母の入院時にお世話になった赤十字病院の看護師に感動し、看護師の道へ進む。結婚を機に現在の居住地へ転居。家庭との両立を考え、看護師の道を断念して、地方公務員(行政職)へ転職。家事・育児(3人の子)仕事の両立で慌ただしい日々を過ごしていた2012年、IgA腎症と診断される。扁桃腺摘出・パルス療法を受け、現在寛解状態を維持。2023年「腎臓病療養指導士」の資格を取得し、患者として看護師としていろんな思いを形にする方法を模索中。

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