元看護師の私とIgA腎症腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
【第2話】慢性腎臓病患者になって、始めたこと、やめたこと
2024.4.22
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食事療法と、見る専門で始めたブログ
慢性腎臓病患者になって始めたことといえば、やはり最初に挙げるのは食事療法。次に、同じ慢性腎臓病患者やその家族と交流するきっかけにもなったブログです。
ブログは、当初IgA腎症の治療方法や体験を知るために「見る専門」として始めました。
腎生検によりIgA腎症と確定診断がついた私は、その入院時にさっそく、腎臓病食(減塩・低たんぱく質)の食事療法が必要と医師から指示されました。指示内容は塩分5g/日、たんぱく質45g/日でした。また、管理栄養士からの食事指導も受けました。
食事指導の内容を理解し、指示を守ろうと真面目に取り組み、時にはその内容をブログに載せたりしていました。でも、がんばりとは裏腹に、ステロイドの副作用も重なったとてもつらい体調不良が続きます。いちばんひどいのが貧血。鉄分がどんどん体から減っていくのです。貯蔵鉄(フェリチン)の数値が「2」になってしまったこともあります。担当医に「この数値は初めて見た!」と驚かれました。
担当医は「真面目に食事療法をしている方は貧血になる傾向が多いですね」と、食事療法をがんばっていることを褒めてくださりました。「こんな時は鉄剤を処方しますから、大丈夫ですよ」と言われ、最初は疑うこともなく安心しきって、食事療法を続けていました。
ブログで交流している方々の食事療法を見てみると、そこには私の知らないワードがいくつもありました。でんぷん米、低たんぱく米、動たん比※1、アミノ酸スコア※2…… 私が受けた栄養指導には無かったワードたち。また、自治体や病院、栄養士会などが主催する調理実習が毎月のように開催される様子や、みなさんそこで学習し、仲間を作り、食事療法が数値改善・維持につながる生活を送る様子も綴られていました。私の住む地域ではそのような調理実習をしている病院・自治体は探しても見つからず、慢性腎臓病の重症化予防に対する取り組みに地域差が確実に存在することを思い知らされました。
※1 動たん比:動物性たんぱく質比。たんぱく質には動物性と植物性の2種類があり、1日に摂るたんぱく質量のうち動物性たんぱく質が占める割合のこと。
※2 アミノ酸スコア:食品中のたんぱく質を必須アミノ酸の組成割合から評価する方法。たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸のうち、体内で作り出せず食品から摂取するしかない9種類の必須アミノ酸がバランス良く含まれているとスコアが100に近くなり、「良質なたんぱく質」と言える。肉、魚介、卵、牛乳・乳製品などはアミノ酸スコアが100のものがほとんどで、必須アミノ酸をバランス良く含んでいる。
食品のアミノ酸スコア | |||
---|---|---|---|
牛肉 | 100 | 精白米 | 61 |
鶏肉 | 100 | パン | 44 |
豚肉 | 100 | じゃがいも | 73 |
あじ | 100 | とうもろこし | 31 |
いわし | 100 | ||
さけ | 100 | ||
まぐろ | 100 | ||
鶏卵 | 100 | ||
牛乳 | 100 |
栄養指導に疑問を感じ…
腎臓病食の食事療法の基本は、減塩・低たんぱく・必要なエネルギ−(カロリー)摂取です。
私が受けた栄養指導の内容を振り返ってみると、1日の塩分は3.7gで料理するようになっていました。
たんぱく質については、大切なことは「たんぱく質を45g以内に抑える」ではなく、「どんな食べ物のたんぱく質を優先して摂取するか」です。栄養価の高い食べ物からたんぱく質を上手に摂取することで、効率よく栄養分として吸収し、たんぱく質の燃えカスを発生させないことが腎保護につながるのですが、私が受けた栄養指導はその腎保護のためのポイントの説明がなく、ただ「たんぱく質を45g以内に抑える」ことを主眼とした内容でした。
主食は普通米を1食に200gも食べる設定になっており(一般的な女性が食べる一膳は150g程度なので、200gは多すぎます…笑)、それだけでたんぱく質が5g×3食=15g。血や筋肉を作るもとになる動物性たんぱく質も、1日15g程度。1日を通じて、魚30g、肉30g、卵は半分までとされていました。本来なら優先して摂るべき、栄養価の高い(=アミノ酸スコアの高い)動物性たんぱく質を抑えることにより、たんぱく質摂取に規制をかけていたのです。
そして、エネルギーアップのために毎日100gのゼリー。
これでは必要な栄養分が摂れず貧血になって当たり前ですし、そもそもこんなにおかずが少なく、味の薄い食事療法が継続できるはずがありません。
腎臓のための食事療法で貧血になり、腎臓をさらに悪くすることになりかねない状況だったのです。
「私が受けた栄養指導は信用できない」と気が付いてからは、ブログ仲間に教えてもらいながら自分で本を買い、わからないワードを調べ、食事療法を見直していきました。直接ブログ仲間さんにお会いして食事療法のことを教わったこともあります。また、他県の管理栄養士さんを紹介してもらい、腎臓を守るための食事指導を改めて受けたりもしました。
まさに、私が腎臓病患者になって始めたことの3つめがこれです。「行きたいところに行く、会いたい人に会いに行く」。今後透析治療になったら、どうしても行動に制限がかかります。だから、行きたいところ、会いたい人のもとにはできるだけ早いうちに行くよう、この病気になってから心がけています。
やめたこと
最後に、腎臓病患者になってやめたこと。それは「たら・れば を考えること」です。
第1話でも話しましたが、私の腎臓はもう寛解は望めない段階まで悪くなってから、やっと確定診断がつきました。毎年健診を受けており、血尿があっても再検査で問題なし、またせっかく大きな腎・泌尿器の専門病院を受診しても泌尿器科の診察に振り分けられ、「癌の心配なし」と言われるなど、IgA腎症がもう少し早く見つかるチャンスがあったのに活かすことができませんでした。「もっと早く腎臓内科につないでくれたら」「あのとき泌尿器科でなく、腎臓内科に振り分けてくれていたら」と思い、「せめて寛解が期待できる時期に治療を始めることができていたら」と「たら・れば」の想定を考え悔やんだこともありました。でも、いくら悔やんだところで、腎臓の機能が復活することはありません。だから、もう、病気について「たら・ればの話を考えることをやめよう」と決めました。
最初は病気のことについてだけそう思っていましたが、いつのまにか普段の生活全般「たら・れば」を考える癖がなくなっていました。そして、今後も「たら・れば」を考えて後から後悔することのないように、「行きたいところに行く、会いたい人に会いに行く」ことを心がけて、前向きに物事をとらえるようにしていきたいと思っています。
この病気になってしまったことは残念ですが、看護師・腎臓病療養指導士・保存期患者である私が、少しでも慢性腎臓病患者のお役に立てるよう、私らしく活動していければと考えています。
参考
- 厚生労働省「食生活改善指導担当者テキスト〜栄養指導・健康教育編〜」2021年3月
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