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透析患者と介護のカタチ〜
一つの“希望”がここ春陽苑にあります
2017.6.5
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現在、わが国の人口における65歳以上の割合(高齢化率)は26.7%と、4人に1人は65歳以上となっており(平成28年版高齢社会白書)、少子高齢化が社会問題となっていることは多くの方がご存知のことと思います。同様に透析患者においても、平均年齢67.86歳と高齢化が進んでいます(2015年末わが国の慢性透析療法の現況)。
常時介護が必要で家庭での生活が困難な場合や、リハビリを中心とする医療ケアと介護を必要とする場合の高齢者入居施設はさまざまな形態のものがあり、多くの方が生活を送っています。
しかしながら、施設によっては透析をしている方は入居を断られるというケースをよく耳にします。
またそれとは対照的に、ここ数年で透析施設を運営している医療法人が施設の近隣また敷地内に透析患者の住まいを想定した入居施設を建設するケースが増えてきました。
先進の介護サービスの実現を目指す「春陽苑」
透析患者自身はもちろん、家族としても老後の住まいの問題はとても重要です。
そこで、介護と医療2つの分野の福祉サービスを提供している社会福祉法人むつみ会「春陽苑(しゅんようえん)」(埼玉県さいたま市)を取材しました。
春陽苑は全国的にも画期的な取り組みをされており、私は取材前から大変興味を持っていたのです。
なんと、特別養護老人ホーム※(以下「特養」)の中に透析室があり、入居者は同じ建物の中で透析が受けられる施設です。
※特別養護老人ホーム:介護老人福祉施設とも呼ばれ、社会福祉法人や地方自治体が運営する公的な施設。要介護状態と認定され、身体上または精神上著しい障害がある方、あるいはその障害のために常時介護を必要とし、自宅で介護を受けることが困難な方が利用できる。
春陽苑は特別養護老人ホームとして1998年4月に設立されましたが、2015年6月に「春陽苑にこにこクリニック」を開設することで介護と医療両方の提供が可能となり、同時に透析室を開設しました。
近年よく耳にする「医療と介護の壁」は高く、クリニック開業までに3年を費やしたとお聞きしました。どれだけの労力をかけて特養の中に透析室を作ることを達成されたのかと想像すると「医療依存度が高い方でも安心して生活して欲しい」というスタッフの皆さんの強い想いを感じました。
連携と管理が行き届いた
「トータル・ケアリング・ステーション」
東京から車で取材に向かいました。私はさいたま市のお隣の川越市出身で、車中から見える周辺の風景にはどこか懐かしさを感じました。
あいにくの曇り空だったので今回は叶いませんでしたが、施設前の荒川河川敷からは富士山も望めるそうです。
到着すると苑長をはじめスタッフの皆さん、そしてクリニックの鈴木孝子先生にお迎えいただき、早速透析室を案内していただきました。
広々としたスペースにベッドは4床のみ。
車イスからベッドへの移動を考慮して、間隔はゆったり取られています。
そして広い窓の外には緑の中庭です。春に桜の樹が満開になった時はとても綺麗で、ここは特等席とのこと。
現在は7名の入居者の方と1名の通院の方、計8名がここで透析をされています。
入居者の方は生活している居室からそのまま階下に降りて透析が出来ます。
食事や服薬も1階のクリニックと居室のある上階の入居施設でしっかり連携され、管理が行き届いています。そのため大幅な体重の増えもなくデータがとても良くなり、また透析中の血圧低下もほとんどないということでした。
そして、もし透析中に何かあってもすぐに分かるように、他の職員からも見えるような窓を多く設置する工夫がされており、その体調の変化はすぐに特養のスタッフにも共有されるので迅速な対応が可能です。
この施設に入居されている透析患者さんの多くは、家族の通院介助(送迎)が難しくなり入居を決めたそうです。他の高齢者向け入居施設では、現状この送迎と食事管理が課題で受け入れが難しいというケースが多いそうです。
春陽苑はそのすべての課題がクリアされる環境というわけです。
診察室も拝見し、上階の入居施設を案内していただきました
明るく広々とした共有スペースでは、入居者の皆さんが思い思いにくつろいでおり、行く先々でスタッフの皆さんが元気に挨拶してくださいました。
居室も含めて施設内はとても清潔で、スタッフが明るく元気でとても活気のある施設です。
「トータル・ケアリング・ステーション」を目指し、食事や入浴、リハビリ等にも幅広くきめ細かい対応をされています。
このように生活の場もサービスが行き届いた環境であれば、透析患者のように介護度が高く、医療が必要な利用者の方でも、安心して生涯を過ごせるのではないかと感じました。
透析患者とそのご家族へのメッセージ
今回ご案内いただいた春陽苑施設長 八瀬江理華さん、看護師長 杉内栄子さん、腎臓内科医 鈴木孝子先生から、透析患者とそのご家族へのメッセージをいただきました。
施設長:八瀬江理華さん
ここは特養ですので、今までどういう人生を歩んでこられたか、ということは全く関係ありません。
どんなに厳しい人生を送られてきた方でも、その軌跡を大切にしながらここで生活することで「良かった」と思っていただけたらそれが1番だと思っています。
たとえ透析患者さんであったとしても、ご高齢者の一人としてたまたま透析が必要だっただけで、他の方もなにかしらを抱えています。なので、透析はその人の個性であり、生活の一部であると受け止めています。
入居者さんとは最期まで関わらせていただきたいと思いながら、全スタッフは務めています。
一番は看取りの介護。
ご本人もご家族も納得して、安心して最期を迎えられるようにしたいと思っています。
看護師長:杉内栄子さん
前職で訪問看護をしていた時、通院が大変でご自分で透析を止めた患者さんと出会ったことがあります。ご家族も悩まれましたが、ご本人自身の選択で最期を迎えられました。
春陽苑のような施設があったなら、その方もご家族ももっと違う選択ができたのかもしれないと思っています。
ご本人もご家族も納得いくような形で、皆が話し合ったうえで決められる選択肢と環境を広げられれば、それは私達が一番望むものだと思っています。
腎臓内科医:鈴木孝子先生
もしご自身またはご家族が透析をしている上に、特養に行かなければならないという身体状態になっても、透析患者が入居を受け入れてもらうのはなかなか難しいことだと思います。
特養にクリニックが併設しているということで、ここ春陽苑では透析ができ生活もしっかり看られる環境のため、体調管理が非常に良くなります。そして、当然送迎の煩わしさがありません。それは透析患者である入居者にとっても非常によろしいことだと思います。
また、ここでは透析患者さんが事務職として働いています。透析患者が透析患者のために働く。例えば透析患者でも介護士や看護師としてここで働き、ここで透析をするというのも良いのではないかと思っています。患者当事者が治療や介護に関わることで、スタッフ全体のレベルアップも図れると考えます。そういう可能性もここにはあります。
透析患者の「終の棲家」を考える
繰り返しになりますが、特養の中に透析室をつくることにはさまざまなハードルがあり、大変な苦労があったそうです。
透析患者の高齢化に伴い、介護が必要で通院もままならない状態になった時、当事者として老後をどこで暮らすのか、いわゆる「終の棲家」をどうするのか。
また、家族として通院介助や食事、服薬の管理が難しくなった場合はどうすれば良いのか。
これら「住まいと介護」に関する問題は、私達透析患者にとって避けては通れません。
皆さんはいずれ訪れる老後について考えていますか?
私事ですが、現在東京で同居している母は腎臓が悪く保存期の状態です。6年前に父が亡くなり、そのまま腎臓が悪いことも知らずに川越の実家で一人暮らしていたら、透析になっていたかもしれません。もしそうなっていたら、実家に近いこちらの施設への入居も選択肢のひとつになったと思います。
高齢者向けの入居施設はさまざまな形態がありますが、ここ春陽苑には一つの“希望”があります。
特養で透析ができる施設が全国に拡がり、自分らしく暮らせる住まいの選択肢が増えることは、透析患者の“希望”であり、将来の不安を取り除くひとつのきっかけとなり得るでしょう。
社会福祉法人むつみ会 春陽苑
埼玉県さいたま市西区飯田新田91-1 アクセス
見学は随時募集中です!
詳しくは春陽苑ホームページをご覧ください。
相談ダイヤル TEL:048-625-0707
メール:お問い合わせフォーム
腎臓内科医鈴木孝子先生が院長を務める透析クリニック
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