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透析患者版「呪いの言葉の解きかた」
2020.2.10
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「呪いの言葉」というキーワードあります。上西充子 著「呪いの言葉の解きかた」では、「相手の思考の枠組みを縛り、相手を心理的な葛藤の中に押し込め、問題のある状況に閉じ込めておくために、悪意を持って発せられる言葉」としています。
例えば、劣悪な環境で働いていることに関してあなたが愚痴をこぼしたら、「嫌なら辞めればいい」と言われたとします。本来はそんな環境で働かせているあなたの会社の経営者の非が責められるべきなのに、なぜかあなたが「文句を言わずに働け」と圧力をかけらていることになりませんか?
子供の頃「女の子なんだから(おしとやかにしなさい/家事を手伝いなさい)」「男の子なんだから(泣くのはやめなさい)」などと言われたりしませんでしたか? 母親だったら「お母さんなんだから(我慢しなさい)」などと、年齢や属性、立場ごとに何らかの困難を抱えつつ、呪いの言葉に直面したことは誰にでもあるのではないでしょうか。
そして、その呪いの言葉によって心理的な自由を妨げられたと感じたことは、誰にでもある経験だと思います。
透析患者さんにとっての「呪いの言葉」
透析患者さんの皆さんの場合は、労働内容や環境、ジェンダー、年齢などに加えて「慢性疾患の患者」「透析患者」という属性も追加されます。その分、あなたを追い詰める言葉を投げかけられることも増えるでしょう。健康な人にとってはなんでもないことが「呪いの言葉」になることもあると思います。
代表的なものは「病気は自己責任」「透析は自業自得」あたりでしょうか。この代表的なもの以外にも医療従事者、家族、友人や同僚、第三者などからの多種多様な呪いの言葉があることは、とりあえず今現在健康な私でも想像に難くありません。
「呪いの言葉」は理不尽であればある程、あなたの葛藤や呪縛は強くなる一方です。言い返すにしても、いきなり理路整然と反論することは難しいですし、むき出しの悪意があるなどの場合はびっくりして言葉が出ないですよね。
「呪いの言葉」の切り返しかた文例集
「呪いの言葉の解きかた | 「呪いの言葉」に「思考の枠組み」を支配されないための切り返し方」というウェブサイトがあります。
呪いの言葉への切り返ししができれば、状況を把握し、柔軟に葛藤や呪縛から距離を置いて、状況への対応方法を考えられるようになるのでは、という観点からこの文例集は作られています。
「呪いの言葉の解きかた」からこの文例集サイトの紹介部分を抜粋します。
もちろん気持ちのうえで呪縛から距離を置くことができても、現実に自由の身になれるわけではない。けれども、まずは自分が相手の「呪いの言葉」の呪縛の中に押し込められ、出口のない息苦しさの中でもがいている、その状況を精神的に脱することが必要だ。そのための切り返しかたが、ここに集められた文例だ。
文例をそのまま口にして相手がさらに攻撃的になる可能性などもあり、必ずしも状況が好転する保証はありません。反論を口にするのが大変な場合もあるでしょう。それでも、頭の中で唱えて自分に言い聞かせるだけで「心理的に距離を置くための柔軟体操」となり、呪いの言葉を無効化するきっかけにできる筈です。状況は変わらなくても、心を少しでも軽くすることができるわけですね。
透析患者さんの場合はこんなケースも考えられます。医療従事者と患者、互いを尊重する対等な関係であるべきだと頭ではわかっていても、医療従事者が何気なく発した呪いの言葉に対して、日頃お世話になっているだけに反論するのは大変でしょう。それでも方法が頭に入っていれば、いつかは引け目を感じることなく切り返えせる日が来るかもしれません。
呪いの言葉の解きかた
「呪いの言葉」に直面したらどうしたらいいのでしょうか。「呪いの言葉の解きかた」では、言葉に搦(から)め捕られないために、まず「相手の土俵に乗せられないこと」としています。内容にかかわらず、「なぜあなたは私を追い詰めるのですか」「あなたは要は私を追い詰めておきたいのですね」と返せば、ひとまず相手の土俵から距離を取り、呪縛の外側に出ることができます。このように距離を取って状況を俯瞰すると、個別具体的な切り返しかたも思い浮かぶかもしれません。
先程の代表的な呪いの言葉、「病気は自己責任」「透析は自業自得」の2つで切り返し文例を考えてみます。
病気は自己責任
- 100%自己責任だというエビデンスはありません、誰も線引なんてできないんです。
- 病気が個人の努力で防げれば苦労はありませんね。
- 貧困層に肥満や糖尿病が多いことや、肥満や高血圧は個人の怠惰ではないことは、ずいぶん前から世界の常識ですよ。
透析は自業自得
- 腎臓病=(イコール)不摂生ではありません(原疾患を口にすることに抵抗がなければ付け加えてもいいかも)。
- 個人差はあれど腎臓は加齢で弱っていくものです。あなたは絶対に死ぬまでに腎臓病を絶対に患わない自信があるわけですね。
- 医療費コスト削減という大義名分のもとで行われる命の選別ですね。弱い者いじめは楽しいですか?
※喫煙や暴飲暴食が過ぎる、明らかに自己管理を怠っている方、医療従事者の忠告を無視し続けている方などが上記を言い訳に使わないように願います。
この他にも、恋愛・結婚に関わることや、日常生活で出会うかもしれない呪いの言葉などへの切り返し文例も考えてみました。
(恋愛の場面で)透析をしている方とはお付き合いできません
- あながたそれ程私のことを好きではない、ということがよく分かりました。
- とことん話し合いましょう。あなたの心配事は、意外と大したことがなかったり、勘違いかもしれません。
(交際相手の親族などから)透析患者との結婚は許さない
- 収入や病気や治療のことを話し合い、私たち当事者二人で決めたことです。何卒温かく見守ってください。
- 結婚は実際にしてみなければわかりません、私たち二人で病気や治療もひっくるめた幸せの形を見つけます。それなりの強い覚悟でいます。
子供の頃や若年からの腎臓病や糖尿病への心ない言葉
- それは偏見です。あなたがたまたま健康に生まれて健康に育っただけです。病気は全てが自己責任ではありません(続けて自分の病気を説明しても良いかもしれません)。
- 若い(幼い)頃から、病気や治療は生活の一部として付き合い、コントロールして生きてきたんです。褒めて欲しいくらいです。
体調が優れず優先席に座っていたら、怒られたり罵ったりされた
- 優先席はご高齢者のためのみではなく、見えない障害を含む体が不自由な人や体調が悪い人のための席です。私は体調が優れないため座っています。
- 私が優先席に座っていることによって、あなたは不利益をこうむるんですか?
- 座りたいのであれば席を譲りますが、私の体調が “さらに” 悪化して倒れでもしたら責任をとってくださいね。
透析後、体調が優れず家事が滞っている場合などへの理解ない言葉
- 透析治療そのものが体への急激な変化を伴う負担が大きい治療。さぼりたくてさぼっているわけではない。
- その思いやりのない言葉で余計に体調が悪くなるから、やめてほしい。
- 私の体調より自分の食事が心配なの?
これらの例文をそのまま使えないこともあるかもしれませんね。ご自身でも切り返し方を考えて、例文をストックしておくと良いかもしれません。
あなたに力を与える「灯火の言葉」や「湧き水の言葉」を集めましょう
「呪いの言葉」はあなたを萎縮させて思考や行動を縛るものです。「呪いの言葉の解きかた」の著者上西充子氏は、それとは対照的な、力を引き出し、力を与え、主体的な行動を促す言葉を「灯火の言葉」と表現しています。
私が「灯火の言葉」という表現でイメージするのは、心のなかに静かに燃える灯(ひ)だ。体をあたため、気力をおこさせ、しっかりと立とうとする自分を支える灯。「呪いの言葉」を投げつけてくる人がいる一方で、そんな「灯火の言葉」を届けてくれる人もいる。
じんラボにも、透析導入間近の方に向けた「灯火の言葉」集、「もうすぐ透析です、と言われたあなたへ〜先輩患者からのメッセージ」があります。
匿名の先輩透析患者から不特定多数の透析導入間近の方々に向けた言葉でも、十分に灯火となり得ます。知人や身近な人からのものなら、更にあなたの力になることでしょう。
「灯火の言葉」は他人からあなたに向けられるものですが、自分の体から湧き出て生き方を肯定する言葉を、上西氏は「湧き水の言葉」と名づけています。
実際に人は、何度も新たな「呪いの言葉」に揺さぶられ、揺れ動き、そのたびに周りの人の言葉や行動に支えられ、自分の中に蓄積した「灯火の言葉」に支えられ、自分の置かれた状況を俯瞰し、その状況をとらえるための新たな言葉を探し、そうして少しずつ、少しずつ、不当な干渉に揺さぶられない自分へと変わっていく。
「灯火の言葉」は、呪いに抗う燃料になり、「呪いの言葉」に対峙した結果見つけた(生まれた)「湧き水の言葉」が、あなたにしなやかな強さを授けてくれるんですね。「灯火の言葉」や「湧き水の言葉」をたくさん集めて、心に留めておきましょう。
「呪いの言葉」の見分け方、「呪いの言葉の解きかた」の使いかた
さまざまな言葉についてお話しましたが、覚えておいていただきたいことがあります。それは、相手から投げかけられた言葉の目的は何なのかを正確に見極める必要がある、ということです。
もしあなたが誰かに「塩分を摂りすぎではないか?」と言われた場合、その状況や関係性でまったく意味が変わります。悪意を持って「塩分を摂りすぎではないか?(自己管理が下手だな/自分の病気の知識不足だな)」と言ったとしたら、それは呪いの言葉です。
あなたを心配するあまり家族や医療従事者が言った場合は、追い詰められたり煩わしく感じたとしても、それは呪いの言葉ではないですよね。相手の言葉が少々きつくても、わかって欲しい、心配を伝えたいがための感情の現れである場合もあります。
視野狭窄になると、被害者意識などのマイナスの気持ちが判断を鈍らせます。「呪いの言葉」は大前提として相手があなたを不当に扱おうとしている場合に発せられるものです。その状況と関係性を冷静に見つめて判断してください。
相手に悪意がなくても、誤った情報や無知からの偏見などの場合や、あなたの心情や状態を考えずに思い込みを押し付けてくる場合もあります。これも大局的には呪いの言葉ですね。
あなたの心理的な自由を妨げる言葉を投げかけられたら、まずはその言葉に搦め捕られないように冷静になって、切り返す言葉を探しましょう。そして、可能であれば相手に伝える努力をしてみましょう。声を上げることは大変ですが、問題に向き合って対処するという経験を積むことは絶対に無駄ではありません。「灯火の言葉」があなたを後押ししてくれる筈です。
その経験値があなたの体に「湧き水の言葉」を発生させて自己肯定につながり、QOL(生活の質)を高めることになると信じています。
参考
- 上西 充子(著)「呪いの言葉の解きかた」晶文社 (2019/5/25)
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