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理学療法士ゆうぼーの じんラボ運動療法講座【第14回】
〜障がいとリハビリテーションの役割〜

2015.7.27

文:ゆうぼー

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当運動療法講座の第11〜13回の3回にわたって脳卒中のリハビリについて取り上げました。
今回は脳卒中後遺症をはじめとしたさまざまな「障がい」に対するリハビリの役割についてのお話です。

私は透析患者さんのリハビリ指導をしていますが、透析患者さんの中には脳卒中後遺症以外にもさまざまな障がいや併発症状に苦しむ方がいます。
既往歴(患者の過去の病歴及び健康状態の記録)によって異なりますが、具体的には麻痺や骨折による予後不良(治療後の経過あるいは見通しが良くないこと)、糖尿病性の神経症状、手根管症候群、変形性関節症、アミロイド沈着による痺れや関節可動域制限、廃用症候群(安静状態が長期にわたって続くことによって起こる、さまざまな心身機能の低下)などがあります。
そんな中リハビリに励む患者さんから「この障がいは良くなるの? 」「動かなくなった手足は治るの?」などの質問を受ける機会が多くあります。
果たしてリハビリとはどんな役割を果たすのか…。そんな疑問に答えるべく、「リハビリの役割と必要性」について改めて説明したいと思います。

まずリハビリの語源を下の図で見てみましょう。

“リハビリテーション”の意味“リハビリテーション”の意味

つまり、再び人間らしく生きることを意味します。また、リハビリをすることにより障がいを持つ前の状態まで回復を目指すという意味があります。ただし実際に身体機能が障がいを持つ前と同じレベルまで回復することは難しく、環境設定や福祉サービスの提供により、足りない部分を補助していくことで自立度の高い生活を目指すことも含まれます。
日本では終戦後に傷痍軍人の多くが障がい者となったことを契機として、広く定着していきました。

その後1980年に世界保健機構(WHO)は国際障害分類(ICIDH)を発表しました。

WHOは障がいから起こる問題を明確化するために、障がいを分類しましたWHOは障がいから起こる問題を明確化するために、障がいを分類しました

impairment(機能障害、形態障害)は、例えば腎不全や麻痺、骨折、視野欠損です。
disability(能力障害)は、例えば麻痺によって手足が動かなくなったことにより、日常生活における動作のレベルが低下したり歩行障害になることを言います。
handicap(社会的不利)については、脳卒中後遺症により手足に麻痺が残った方を例に挙げてみます。この方がリハビリをせず廃用症候群が進行し、車椅子生活を余儀なくされたとします。車椅子生活になりますと長距離の移動や階段の昇り降り、交通機関の利用も困難になってきます。また活動範囲も狭まり余暇活動も少なくなる、あるいはできなくなってしまう可能性もあります。handicapとは、このように障がいがその人に与える生活全般に及ぶ影響を指します。

このICIDHは2001年に下の図のようにICIDH-2として改訂されました。

ICIDH-2への改訂ICIDH-2への改訂

この改訂を見ても分かる通り、障がいが活動や社会生活への弊害となるのは言うまでもありません。さらに同じ年に国際生活機能分類(ICF)という考え方に変遷していきました。

国際生活機能分類(ICF)による分類国際生活機能分類(ICF)による分類

ICIDHは「障がいは病気による結果である」という視点に基づいていました。
しかしICFにおいては、障がいは「環境因子」や「個人因子」等の社会背景の影響も相互に関連しており、その人の全体的な人物像を捉えていくべきだと考えていくようになりました。

そして「障がい」でなく「障がいのある人」として包括的に捉えることを推奨し、障がいによるマイナス要素でなく、プラス要素に重点を置く指針へと変遷しました。
では、そんな中で「リハビリの役割」とは一体何でしょうか?
人によって障がいの度合いや残った機能、家族の介助力等が異なってきます。ですから障がいでなくその人個人を見つめ「できないこと」でなく「できること」に着目します。リハビリは、筋トレや有酸素運動などによる運動療法をするだけでなく、杖や自助具、装具、福祉用具を整え「どうしたらより良い暮らしができるか」を考えていくことも含みます。

リハビリテーションでは「どうしたらより良い暮らしができるのか」を考えるリハビリテーションでは「どうしたらより良い暮らしができるのか」を考える

「障がい」に捉われすぎているとできるはずのことも覆い隠されてしまうこともあります。 「障がい」を見つめ、その上で「できること」を加えていくことが大切になります。

ここで私がリハビリを担当している患者さんの例を挙げて、リハビリの役割についてお話しします。
その方は50歳代の男性で、腎不全(原疾患:腎硬化症、透析歴:20年)、心不全(ペースメーカー装着)、脳卒中後遺症(左半身完全麻痺)の既往歴があります。現在週3回透析クリニックに通院し、血液透析を受けています。30代で透析導入となり仕事をしながら透析治療を受けていましたが、1年前に脳梗塞で倒れて以来、麻痺の後遺症が残ってしまったことにより仕事を続けることができなくなりました。 私がリハビリの担当になる3ヶ月前(脳梗塞発症後半年)は、車椅子が主な移動手段となっており、杖を使用しての歩行は10メートルがようやくといった状況でした。要介護2で、週2回(非透析日)ヘルパーが来る以外は自力で日常生活を営まなくてはならない状態でした。これだけ多くの障がいを抱えながら自宅で一人暮らしをしており、ご本人も不安な生活を送っていました。実際に透析を終えて帰宅した際に、ひどい目眩に襲われ玄関先で動けなくなってしまったことがあるそうです。またある時には、麻痺で手足の動きが拙劣なために転倒してしまったこともあるそうです。その時にはしばらく立ち上がることができず、ヘルパーが来るまでの2時間のあいだ倒れたまま横たわっていたとのことでした。

そんな在宅生活における不安を解消し、可能な限り自立度の高い環境を整えるため、リハビリを導入する運びとなりました。

この患者さんの状況を、先程説明した障害分類に当てはめて考えた場合は以下の通りです。

Impairment: 脳卒中後遺症による手足の麻痺、腎不全による血圧変動
activity limitation: 動作や歩行のレベル低下

また、ICFの視点で見た場合です。

環境因子: 一人暮らし、週2回ヘルパーが来るとき以外は、介助なしで生活を営まなくてはならない。住宅内に段差や滑りやすい危険な場所がある。
個人因子: 年齢的に若いこともあり、復職を切望されている。

現在歩くのがようやくできる程度の身体機能レベルの患者さんが、在宅生活を継続しながら週3回の血液透析を受けつつリハビリに励み、仕事への復帰を目指しています。

この方の担当になり私が最初に取り組んだのは、ケアマネージャーと相談し介護区分変更をすることでした。理由としては今後も在宅生活を継続し仕事への復帰を図るためには、より充実した福祉サービスが必須であると判断したからです。そうして介護認定調査の後介護度2から3に変更となり、より充実したサービスが受けられるようになりました。
介護区分変更が済んでからは自助具の設定と見直しをし、使用している車椅子や杖を全面的に変更しました。なぜなら、片麻痺の影響により手動では車椅子操作ができないにもかかわらず、自操式の手動車椅子を使用していたため、電動車椅子に変更しました。電動車椅子は片側の手しか動かなくてもレバーを操作すれば自在にコントロールできるので、動ける範囲が広がり活動幅を拡大することができました。

変更した電動車椅子には杖を備えることもできる変更した電動車椅子には杖を備えることもできる

次に住宅改修にも取りかかりました。余程大きな家でない限り家の中を電動車椅子で移動することは不可能です。よって家の中では自分の足で移動しなくてはなりません。しかし転倒した経験もあるこの方の身体の状態では、自宅で安全に生活を送ることは困難でしょう。
そこでこの方の生活を把握し、どの場面で危険が予測されるかを調査しました。そして危険が想定される箇所に、手すりや転倒防止の滑り止めシート、段差を解消するための上がり框(あがりかまち:玄関や勝手口などから上がる段差の部分に取り付けた化粧板のこと)を設置しました。
これにより在宅生活においての転倒リスクが軽減され安全の確保ができました。

続いてヘルパーの対応についても見直しました。限りある介護サービスを有効に使うために、一番必要な場面に来ていただくようにしました。ご本人と透析クリニック側は透析後の体調を心配していたので、透析後にヘルパーさんに対応してもらえるように設定しました。
こうして一人暮らしによる不安は解消され、透析後の体調管理もできるようになりました。
帰宅後に急な血圧変動や体調不良が生じた際は、クリニックに連絡していただくよう連携を図ることで安全を確保しました。
ヘルパーがいることで透析クリニック側も在宅での生活の情報を得ることが可能になったので、安心して家に帰っていただけるようになりました。

このように患者さんを中心に医療・福祉の従事者が連携を取り、障壁を一つずつ解決していきました。
現在は、週3回の透析前にリハビリとして運動療法にも取り組んでいます。
仕事に復帰するという目標に向けてリハビリにも積極的に励み、歩行や動作のレベルも少しずつですが上昇してきています。

歩行訓練を終えて、これから透析を受ける歩行訓練を終えて、これから透析を受ける

「障がい」に捉われて、「出来ないこと」に目を向けるのではなく、「障がい」を見つめることで、「出来ること」を見つけ出します。

このように不可能と思われる困難なことを乗り越えていくことをリハビリと呼ぶのだと思います。

参考

  • 中村隆一(2009)『入門リハビリテーション概論』医歯薬出版

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ゆうぼー

ゆうぼー
本名:舘野雄貴
茨城県古河市出身、東京都世田谷区在住。杏林大学卒業。
趣味:空手、読書。
略歴:児童養護施設・総合病院・老人保健施設を渡り、現在は医療法人社団麗星会 品川・五反田ガーデンクリニックの理学療法科長として、透析患者さんへのリハビリを行っています。

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