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第9回長時間透析研究会・草刈万寿夫先生講演
『長時間透析でも血流量は多い方が良い』
2014.3.7
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『透析と共に生きて』森本幸子(兵庫県 元町HDクリニック)
『透析と共に生きる幸せ』畠山岳士(滋賀県 第二富田クリニック)
2013年11月10日に開催されました第9回長時間透析研究会の中で「ナガサキ・シンポジウム<長時間透析は果たしてベストの治療なのか?>」と題し12名の医療従事者の方の連続講演が行われました。今回はその中で松江腎クリニック院長・草刈万寿夫先生が講演された『長時間透析でも血流量は多い方が良い』について報告します。
草刈万寿夫(くさかりますお)
医療法人 松江腎クリニック 院長
松江腎クリニックホームページ
本講演では、健常腎の糸球体濾過値(GFR:1分間にどれくらいの血液を濾過できるかを示す)と血液透析のGFRを比べたとき、時間だけでは血液透析の量では追いつかず、時間×血液量での効率が大事になってくるということと、効率を上げた際に尿毒素(UN)やリン(IP)の除去と共に、体に必要なアルブミンやアミノ酸も損失してしまうことから、松江腎クリニックではどのように対応、指導しているのかを説明されました。
長時間透析を健常腎と比べてみる
先ず、草刈先生は健常腎のGFRについて次のように話し始めました。
「例えば身長165cm、66kgの男性の場合、1週間のGFRはおよそ1300リットルになります。標準的かつ健康的な男性が1週間で血液を濾過できる量は1300リットルであり、その人の体重の約20倍の血液を綺麗にすることになります。
これを日本の標準的な透析量に当てはめると4時間透析、QB(血流量)200mL/minで週間GFRは144リットルで、健康な人と比べて、ざっと10分の1くらいしか濾過できていないことになります。
この時間を5時間に延ばし、QBを400mL/min、週4回にすれば週間GFRは480リットルとなり、健常者の3分の1になります」
QBとは、シャントから血液ポンプを使って血液を取り出しダイアライザに流入させる血液の速度(mL/min)です。つまり健常者の血液濾過量と比べたとき、QBは透析時間と同様、透析効率のための重要な要素であると草刈先生は説明されました。
8時間のHDFで血流量が違うと除去量はどう違ってくるか?
「当院で8時間のオンラインHDFをしている患者さんがいまして、この方の体重が80kgです。QB200mL/minと300mL/minとで、尿毒素(UN)の除去量がどうなるのか比較してみました。
血流量の違いがあっても血中濃度については6時間すぎても差がありません。ですが、尿毒素の除去量で言えば、大きく違ってきます。リン(IP)についても同様の傾向が見られます。」
アルブミン、総アミノ酸の損失量
長時間透析では体に必要とされる物質も損失してしまうということが言われます。体に必要とされるアルブミン(Alb)や総アミノ酸はどうなるのでしょう。
「アルブミンの損失量ですが、これは透析条件がダイアライザMFX-25(番号はダイアライザの膜面積が2.5m²であることを示す)、体重が70kgの男性です。血流量(QB)が200mL/minであっても、300mL/minであっても時間とともに損失していますが、抜ける量に差はありません。
総アミノ酸については、血流が多い方が明らかに多く抜けています。6時間過ぎてもまだ抜け続ける。これは問題である可能性があるでしょう」
アルブミンは栄養不良かを見るための値です。こちらは血流量が違っても時間と共に損失することに変わりはありませんが、総アミノ酸は血流量が多いとその分多く抜けることを説明されました。
松江腎クリニックでの治療条件
草刈先生の松江腎クリニックでは、どのような長時間透析を行っているのか、2013年8月の数値で説明されました。
「週間血液処理量を体重で割った数値を見てください。
血流量で言えば、
女性では少なくとも体重の3.6倍、最大で9.13倍です。
男性では、少なくとも3.10倍、最大で12.07倍です。」
日本における標準的な透析時間で同様の計算をすると次のような数値になります。
QB200mL/minで透析時間4時間を週3回、体重が66kgの人の場合、
200(mL/min)×60(分)×4(時間)×3(回)=144リットル
これを体重66kgで割ると2.18倍です。
松江腎クリニックでは最低ラインでもこの数値を大幅に超えた透析をしていることになります。
「女性の場合だと49名中、週3.5回以上の透析を受けている人は13名、長時間透析を受けている人も13名です。
男性では、66名中、週3.5回以上、透析を受けている人は17名、長時間透析を受けている人は31名います」
つづいて松江腎クリニックでのアルブミンと無機リンの値について説明されました。
「アルブミン(Alb)の値は、次の通りです。
女性で最小値は2.40、最大値は4.30でした。
男性の最小値は2.90、最大値は4.50でした。
最小値が出ているのはいずれも高齢でご飯が食べられないといった事情があります」
「無機リンは女性では透析後の数値は平均で1.45、男性は1.70まで下がっています。」
しっかり食事の指導とアミノ酸などの投与
「アルブミンやアミノ酸があれだけ抜けるわけで、これは補うしかありません。ほとんどの人にはしっかり食べるように指導しています。肉や魚をしっかり食べてください、リンが少ない人にはジャコを食べてくださいと指導しています」
基本的にはしっかり食事を摂ることで、足りなくなるものを補うそうです。それでも抜けてしまうものはネオアミュー(腎不全の蛋白質制限によるアミノ酸不足を予防するために作られた輸液)やリン酸ナトリウムなどを補うとのことです。また、カリウム等は野菜ジュース等をしっかり飲んでいるので投与は少ないとのことでした。
透析時間と血流量を多くすることで死亡リスクは低く
「2009年に鈴木先生(鈴木一之先生・かわせみクリニック院長)が出された資料ですが、3時間半で血流量200mL/minのときの死亡リスクを1としたとき、4.5時間で血流量240mL/minのときの死亡リスクは3分の1になっています。この数字は、透析時間も血流量も増やせば、さらに低い数字になると思います」
標準化透析量(Kt/V)と各種のリスク
Kt/Vは、透析前後の体重、尿素窒素の量、透析時間から算出する透析効率を表す値ですが、このKt/Vの増加にともない生命予後が良いことは日本透析医学会の統計調査報告にも示されています。
四肢切断、心筋梗塞、脳梗塞は透析患者にとって深刻な疾病リスクですが、Kt/Vが1.8より高いとそれらの発症リスクは低いと草刈先生は説明されました。
「当院のある患者さんの状態を示しています。他の病院から転院してきて最初は4時間透析だったのを5時間、6時間と増やしていきました。Kt/Vの増加と共に、心胸比(CTR)は来たときに比べて随分小さくなったのが分かります」
心胸比は心臓の拡大の程度を簡単に知る事ができる方法で、通常50%以下が正常とされます。50%以上は心臓が大きいと判断され、心電図や超音波検査などで心臓肥大がないかを調べます。
まとめ
「血液透析は単純に「量的な治療法」である、つまり「時間×血流量」が良いと思います。施設透析の中では週3回とか限定していますが、6時間やっても8時間やっても追いつかないのが実状なのです。また、透析患者の生命予後と合併症、QOLには「時間×血流量」が大きく関与しており、より多くの透析時間、血流量を稼ぐことが望まれます」と結ばれました。
【研究員:よしいなをき所感】
透析室でよく見られる光景ですが、「リンの値が高いわよぉ。おいしいものでも沢山食べたのかしら」と看護師は言います。患者は「えへへ」と笑いながら舌を出しています。
体にはある程度、蛋白質が必要ですが、一緒にリンも口から入ってしまい、不要な物として体に蓄積してしまいます。
草刈先生は、この矛盾に対して1つの回答を示してくれたように感じました。同時に、草刈先生の元で治療を受けている患者さんたちがうらやましいとも思います。恐る恐る小魚を口にするとか、カリウムは大丈夫だろうかと考えながら果物を口にしても美味しいはずがありません。
不安を感じることなく食物を口にできる、食べ物が美味しいと思えることも患者が健康な生活を送る上で大切なことだと思います。もちろん暴飲暴食はいけませんが、長い透析生活を送る、つまり生きていく上で食の楽しみを味わうことは大切な要素だと思います。「しっかり食べてしっかり透析を受ける」ことが大事であることを草刈先生の講演で改めて学ぶことができました。
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